ジェームス・ボウルズ

ジェームス・ボウルズ
James Vowles
ボウルズ(表彰台左端の白いシャツの人物。2019年ハンガリーグランプリ
生誕 (1979-06-20) 1979年6月20日(44歳)
イギリスの旗 イギリスウェスト・サセックス フェルブリッジ(英語版)
国籍 イギリスの旗 イギリス
職業 自動車技術者(レースエンジニア)
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ジェームス・ボウルズ[1][2][3](James P. Vowles、1979年6月20日[1] - )は、イギリスの自動車技術者である。自動車レースのフォーミュラ1(F1)のエンジニアとしてキャリアを重ねており、2023年からウィリアムズF1チーム代表を務める[4]。F1のメルセデスチームでレース戦略を担っていたことでも知られている。

日本語では名前の表記揺れが大きく、名は「ジェームス」[1][2][5][3]のほか、「ジェイムズ」[6]、「ジェームズ」[7][4]、姓は「ボウルズ」[1][6][4][2][3]のほか、「ボウルス」[8]、「ヴァレス」[7]、「バレス」[5]といった表記が用いられることがある[注釈 1]

経歴

1997年ジュネーヴ・インターナショナル・スクール国際バカロレアを取得し、2000年にイースト・アングリア大学コンピュータサイエンスの学位を取得し卒業[9][10]。その後、2001年にクランフィールド大学でモータースポーツ工学・経営学の修士号を取得した[9][10][11](この進学の経緯については別記)。在学中にプロドライブ奨励賞を授与された[11]

2001年12月にブリティッシュ・アメリカン・レーシング(BAR / B・A・R)にエンジニアとして加入し、モータースポーツにおけるキャリアをスタートした[9][12][10]

2009年にロス・ブラウンがブラウンGPを立ち上げた際にレース戦略を立案するチーフストラテジストに任命され、この年の同チームのタイトル獲得に貢献した[13]2009年イタリアグランプリにて、ブラウンGPは、予選で決勝に使う燃料を多く積む1ストップ作戦により[注釈 2]、少ない燃料で2ストップするKERS搭載勢を出し抜き、1-2フィニッシュを達成した[1]。この作戦は、ストラテジストだったボウルズの発案である[1]

2010年にチームがメルセデスのワークスチームとなった後も同職に留まり、2019年1月に同チームのレース戦略の責任者であるモータースポーツストラテジーディレクターに就任した[9][11][注釈 3]。この間、チームは2014年以降の期間で、7年連続のドライバーズチャンピオン、8年連続のコンストラクターズタイトルという目覚ましい業績を挙げ、レース戦略の責任者として、ボウルズは重要な貢献を果たした[11]

2023年1月、前年末で退任したヨースト・カピートに代わって、ウィリアムズのチーム代表に就任することが発表された[4][2]。これにより、ボウルズはキャリア開始以来20年以上に渡って在籍したチームを去ることになる[4][2][13]

人物

ドライバー

ボウルズはF1における仕事の傍ら、イギリスでクラブレースなどでアマチュアドライバーとしてレース参戦を行っている[14]

2022年にはアジアン・ル・マン・シリーズにドライバーとして参戦し、マヌエル・マルドナド(英語版)ニコライ・カーガード(英語版)と組んでマクラーレン・720S GT3のステアリングを握った[15][14]

Valtteri, it’s James.

バルテリ、ジェームスだ。ポジションをそのままにしてくれ、すまない。(Valtteri, it's James. Please hold position, I'm sorry.)[16]

2018年ドイツグランプリ

2018年シーズン、ボウルズはメルセデスチームのバルテリ・ボッタスにチームメイトのルイス・ハミルトンをオーバーテイクしないようチームオーダーを何度か出した[15](「#外部リンク」を参照)。その際の無線はテレビ中継でも流され、「Valtteri, it’s James.(バルテリ、ジェームスだ。)」というフレーズはミームとなり、ボウルズを有名にした[17]

まず、7月の第11戦ドイツグランプリで、2番手で走っていたボッタスはセーフティカー明けの接近した状態をチャンスと見て、レースをリードしていたチームメイトのハミルトンをオーバーテイクすべくアタックを仕掛けた[16]。しかし、ボウルズはボッタスにポジションを維持するようチームオーダーを出し、ハミルトンと争うことを禁じた[16]

このレースでメルセデスチームは地元レースで1-2フィニッシュを果たし[16][注釈 4]、ハミルトンもタイトル争いのライバルだったセバスチャン・ベッテル(このレースはリタイアに終わった)をランキングで逆転しリードを築き、メルセデスチームは(結果だけ見れば)完璧と言ってよいほどの優れた成果を収めた[16]

続いて、9月の第16戦ロシアグランプリでもそれは繰り返され、ボウルズは同じフレーズを用いてボッタスにハミルトンと争うことを禁じた[15]。どちらのレースもチームは1-2フィニッシュで終えたが、チームオーダーに繰り返し従わされたボッタスは引退を考えるほどに精神的なショックを受け、ボッタスとチームとの関係には溝が生まれることになった[15]

その他のエピソード

  • ボウルズは、イースト・アングリア大学では、得意としていた数学とコンピュータサイエンスのふたつを専攻していたが、学業を進める内に、将来就きたい仕事はこれではないと考えるようになった[11]。そこで、当時の全てのF1チーム(11チーム)に求職の手紙を送ったが、11通の不採用通知を受け取る結果となった[11]。そのことで奮起して、在学中にモータースポーツの経験を積み始め、卒業後すぐにクランフィールド大学[注釈 5]に進学してモータースポーツ工学・経営学の修士号(Motorsport Engineering & Management MSc)を取得し、それがF1キャリアへとつながった[11]

栄典

脚注

[脚注の使い方]

注釈

  1. ^ 主に媒体ごとに違いがあるほか、同じ時期の同じ媒体の中で統一されていないこともある。この記事では、出版物、ウェブサイトなどや、イベントなどで訳語として比較的多く用いられている「ジェームス・ボウルズ」を用いている。
  2. ^ 当時は予選Q3終了時点の搭載燃料で決勝レースをスタートする規則だった。
  3. ^ この役職は、各レースのレース戦略だけではなく、シミュレータの計画であるとか、詳細なパフォーマンスレビューなども仕事の範囲となる[11]。また、CEO兼チーム代表トト・ヴォルフの計らいにより、ボウルズはチーム運営についてのより広範な仕事も任されるようになった[5]
  4. ^ メルセデスチームがF1のドイツグランプリで1-2フィニッシュを飾ったのはこの時が初である[18]。また、チームは前戦イギリスグランプリ終了時点で20ポイント差を付けてランキング首位にいたスクーデリア・フェラーリを逆転し、8ポイントのリードを築くことにも成功した[18]
  5. ^ モータースポーツを専門とした修士課程を設けている[19]

出典

  1. ^ a b c d e f GP Car Story Vol.42 Brawn BGP001、「“遅いクルマ”での正しい戦い方」(ジェームス・ボウルズ インタビュー) pp.70–73
  2. ^ a b c d e Jonathan Noble (2023年1月14日). “メルセデスの戦略担当がウイリアムズのチーム代表に! ジェームス・ボウルズがヨースト・カピトの後任に就任”. Motorsports.com. 2023年1月14日閲覧。
  3. ^ a b c “F1 Tokyo Festival”. 2023年F1日本グランプリ. 鈴鹿サーキット (2023年). 2023年9月30日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年10月8日閲覧。
  4. ^ a b c d e “ウイリアムズF1が新チーム代表を発表。メルセデスの戦略責任者ボウルズを抜擢”. Auto Sport web. 三栄 (2023年1月13日). 2023年1月14日閲覧。
  5. ^ a b c F1速報 F1事件簿2022-2023特集号(2023)、「渦中人物インタビュー」(トト・ヴォルフ、ジェームス・ボウルズ インタビュー) pp.36–37
  6. ^ a b Yasuo Miyake(翻訳) (2021年4月14日). “想像もしていなかったロズベルグのF1引退。メルセデスのストラテジストは「非常にショックだった」と振り返る”. Auto Sport web. 三栄. 2023年1月21日閲覧。
  7. ^ a b 尾張正博 (2022年5月27日). “F1 Topic:ポーパシングを改善も「解決したとは思っていない」とメルセデス。モナコなど市街地コースを警戒”. Auto Sport web. 三栄. 2023年1月21日閲覧。
  8. ^ Jonathan Noble (2023年3月19日). “メルセデスW14は終わったわけじゃない? 古巣の苦境にウイリアムズF1代表が助け舟「強力になってくるコースもある」”. Motorsports.com. 2023年10月8日閲覧。
  9. ^ a b c d James Vowles. “James Vowles” (英語). LinkedIn. 2022年2月22日閲覧。
  10. ^ a b c “James Vowles” (英語). Graduates.com. 2022年2月22日閲覧。
  11. ^ a b c d e f g h Mike Seymour (2023年8月18日). “James Vowles on a rejection-filled route to F1, half a year as Williams’ team boss and his top tips for F1 Manager” (英語). Formula One World Championship official website. Formula One World Championship Limited. 2023年10月8日閲覧。
  12. ^ Simon Arron (2019年10月). “Lunch with... Brawn GP” (英語). Motor Sport Magazine. 2022年2月22日閲覧。
  13. ^ a b “Williams Racing appoints new Team Principal” (英語). Williams Racing (Williams Group) (2023年1月13日). 2023年1月14日閲覧。
  14. ^ a b Jonathan Noble (2022年12月4日). “目線の先にはル・マン参戦。メルセデスF1の”走る戦略責任者”、ボウルズはなぜGTレースに挑むのか?”. Motorsports.com. 2023年1月14日閲覧。
  15. ^ a b c d Ben Johnston (2022年2月1日). “‘James, it’s Valtteri’…Vowles to race in Asian Le Mans” (英語). Planet F1. Planet Sport. 2022年2月22日閲覧。
  16. ^ a b c d e “No plan for me to play support role – Bottas” (英語). Formula One World Championship official website. Formula One World Championship Limited (2018年7月26日). 2022年2月22日閲覧。
  17. ^ Henry Valantine (2021年11月12日). “Russia 2018 team orders ‘like biting own teeth’ for Bottas” (英語). Planet F1. Planet Sport. 2022年2月22日閲覧。
  18. ^ a b “REPORT: Hamilton takes sensational win as Vettel crashes amid Hockenheim downpours” (英語). Formula One World Championship official website. Formula One World Championship Limited (2018年7月22日). 2022年2月22日閲覧。
  19. ^ “Motorsport at Cranfield” (英語). Cranfield University. 2023年10月8日閲覧。
  20. ^ “Honorary Graduates” (英語). University of East Anglia. 2023年10月8日閲覧。
  21. ^ “James Vowles UEA Honorary Graduate Speech” (英語). University of East Anglia (2017年). 2023年10月8日閲覧。

参考資料

雑誌 / ムック
  • 『F1速報』(NCID BB22714872)
    • 『F1事件簿2022-2023特集号』三栄、2023年2月2日。ASIN B0BD451PS1。ASB:FSH20230216。 
  • 『GP Car Story』シリーズ
    • 『Vol.42 Brawn BGP001』三栄、2023年1月27日。ASIN B0BD44TZ2K。ISBN 978-4-7796-4739-0。ASB:GPC20221214。 

外部リンク

  • James Vowles (@jv_f1) - X(旧Twitter)
  • James Vowles - Linkedin (英語)

Valtteri, it’s James.

  • 2018年ドイツグランプリ(3m00s〜) - YouTube
  • 2018年ロシアグランプリ(1m54s〜) - YouTube
  • 2019年シンガポールグランプリ(1m29s〜) - YouTube
  • 2021年オランダグランプリ(4m35s〜) - YouTube

James, it’s Valtteri.

  • 2019年日本グランプリ(2m24s〜) - YouTube
イギリスの旗 ウィリアムズ・レーシング
チーム首脳
  • イギリスの旗 ジェームス・ボウルズ (チーム代表)
  • 不明の旗 マシュー・サベージ (Williams Grand Prix Holdings会長 / ドリルトン・キャピタル会長)
  • イギリスの旗 ジェイムズ・マシューズ(英語版) (Williams Grand Prix Holdings取締役)
主なスタッフ/関係者
現在のドライバー
F1車両
現在のPUサプライヤー
現在のスポンサー
※役職等は2023年時点。
  • 過去のチーム関係者
元チーム関係者
創設者
チーム首脳
主なスタッフ
主なドライバー
1970年代
1980年代
1990年代
2000年代
2010年代
2020年代
※年代と順序はウィリアムズで初出走した時期に基づく。 ※ウィリアムズにおいて優勝したドライバーを中心に記載。太字はウィリアムズにおいてドライバーズワールドチャンピオンを獲得。斜体はウィリアムズにおいて優勝がないものの特筆されるドライバー。
  • F1以外の車両 ※関与のみの車両も含む。
F2
プロトタイプ
ラリー
ツーリングカー
  • 過去の関連組織
タイトルスポンサー
エンジンサプライヤー
  • 前身
  • Template:フランク・ウィリアムズ・レーシングカーズ を参照。
ドイツの旗 メルセデスAMGペトロナス
2010年 - 現在
ワークスチーム
チーム首脳
  • オーストリアの旗 トト・ヴォルフ (チーム代表 / MGP社CEO / 共同オーナー)
  • ドイツの旗 マーカス・シェーファー(ドイツ語版) (MGP社監査役会会長 / メルセデス・ベンツ・グループ取締役{開発部門責任者})
主なスタッフ
元関係者
現在のドライバー
過去のドライバー
車両
現在のスポンサー
関連組織
1994年 - 現在
エンジン/PU供給
関係者
  • イギリスの旗 ハイウェル・トーマス (マネージングディレクター)
  • ドイツの旗 マーカス・シェーファー(ドイツ語版) (HPP社取締役会会長 / メルセデス・ベンツ・グループ取締役{開発部門責任者})
元関係者
供給先
関連組織
1952年 - 1955年
ワークスチーム
主な関係者
主なドライバー
F1用車両
スポーツカー
  • 300SL(英語版) (W194)
  • 300SLR (W196S)
関連組織
関連項目
※役職等は2024年2月時点。 ※太字のドライバーはメルセデスにおいてドライバーズワールドチャンピオンを獲得。
イギリスの旗 ブラウンGP
首脳
チーム関係者
ドライバー
テスト/リザーブドライバー:
※太字はブラウンGPにおいてドライバーズワールドチャンピオンを獲得。
車両
スポンサー
関連項目
日本の旗 ホンダF1
第五期
2026年 -
パワーユニット供給
主な関係者
  • (TBD)
第五期



供給先
関連組織
HRC
2022年 - 2025年
パワーユニット供給
主な関係者
元関係者
供給先
関連組織
第四期
2015年 - 2021年
パワーユニット供給
主な関係者
第四期
供給先
関連組織
第三期
2006年 - 2008年
ワークスチーム

2000年 - 2008年
エンジン供給
主な関係者
日本の旗 本田技研工業
  • 日本の旗 福井威夫
  • 日本の旗 和田康裕(英語版)
  • 日本の旗 村松慶太(英語版)
日本の旗 本田技術研究所
イギリスの旗 HRD※1
イギリスの旗 HRF1※1
第三期


ドライバー
テスト/リザーブドライバー:
車両
主なスポンサー
エンジン供給先
関連組織
HRD
1998年 - 1999年
試作・試走のみ
主な関係者
車両
関連組織
無限ホンダ
1992年 - 2000年
エンジン供給
主な関係者

エンジン
供給先
関連組織
本田技術研究所
1991年 - 1994年
試作・試走のみ
主な関係者
  • 日本の旗 橋本健
  • 日本の旗 瀧敬之介
車両
  • RC1 (RC-F1 1.0X)
  • RC1B (RC-F1 1.5X)
  • RC2 (RC-F1 2.0X)
関連組織
第二期
1983年 - 1992年
エンジン供給
主な関係者
第二期
エンジン
供給先
関連組織
関連項目
第一期
1964年 - 1968年
ワークスチーム
主な関係者
日本の旗 本田技研工業
日本の旗 本田技術研究所
イギリスの旗 ホンダ・レーシング
第一期
ドライバー
テスト/リザーブドライバー:
車両
主なスポンサー
関連組織
関連項目
関連項目
※ 第2期・第3期・第4期の「主な関係者」は、基本的に各部門の「長(ディレクター)」以上にあたる人物のみに絞って記載(多数に及ぶため)。
※ 「関連組織」の( )には略称、[ ]には関連する下部組織を記載。
※1 ホンダ本社の役職者と本田技術研究所の人物を除く(兼務者が多数に及ぶため)。
※2 ホンダ所有のサーキット。第1期と第2期に主要なテストコースとして用いられた。
※3 ホンダ所有の展示施設。第1期から第4期の車両を所蔵(基本的に動態保存)している。
イギリスの旗 B・A・R
主な関係者
BAR
レイナード
ホンダ / HRD
プロドライブ
ドライバー
テスト/リザーブドライバー:
F1車両
主なスポンサー
関連組織
※出身組織(本来の所属組織)別に分類。