安定分布

安定分布
確率密度関数
対称安定分布のPDF
特性指数 (α) を変えた場合。μ:位置母数, c:尺度母数
非対称安定分布のPDF
歪度指数 (β) を変えた場合。μ:位置母数, c:尺度母数
累積分布関数
対称安定分布のCDF
特性指数 (α) を変えた場合。μ:位置母数, c:尺度母数
非対称安定分布のCDF
歪度指数 (β) を変えた場合。μ:位置母数, c:尺度母数
母数 α ∈ (0, 2] — 特性指数
β ∈ [−1, 1] — 歪度指数
γ ∈ (0, ∞)尺度母数(英語版)
δ ∈ (−∞, ∞)位置母数(英語版)
α < 1 かつ β = 1 の場合
[δ, ∞)
α < 1 かつ β = −1 の場合
(−∞, δ]
その他の場合、 R {\displaystyle \mathbb {R} }
確率密度関数 特別な場合を除き
解析的な数式表現は不可能
累積分布関数 特別な場合を除き
解析的な数式表現は不可能
期待値 α > 1 のとき、δ
その他の場合、なし
中央値 β = 0 のとき、δ
その他の場合、数式表現不可
最頻値 β = 0 のとき、δ
その他の場合、数式表現不可
分散 α = 2 のとき、2γ
その他の場合、(無限大)
歪度 α = 2 のとき、0
尖度 α = 2 のとき、0
エントロピー 特別なケースを除き
解析的な数式表現は不可能
モーメント母関数 なし
特性関数 本文参照のこと
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安定分布(あんていぶんぷ、: stable distribution) は、正規分布コーシー分布を含むより広い概念であり、安定分布に従う確率変数の和は適当な一次変換によって元の分布になる。正規分布やコーシー分布は安定分布の特別な場合である。安定パレート分布 (: stable pareto distribution)、レヴィ分布 (: Lévy distribution) とも呼ばれる。

定義

退化分布を除き、次の性質を満たす分布は安定分布である。 (Nolan 2009).

X1X2 を確率変数 X の独立な複製 (copy) とする。確率変数 aX1 + bX2ab は定数)が cX + dcd は定数)と同一な分布であるとき、確率変数 X安定 であると言い、d = 0 のとき、この分布は 厳密に安定 であると言う。
a X 1 + b X 2 = d c X + d {\displaystyle aX_{1}+bX_{2}\;{\overset {\underset {\mathrm {d} }{}}{=}}\;cX+d}

確率密度関数

安定分布の確率密度関数を解析的に書くことはできないが、特性関数 ψ(t) を用いて次のように書くことができる。

f ( x ) = 1 2 π φ ( t ) e i x t d t {\displaystyle f(x)={\frac {1}{2\pi }}\int _{-\infty }^{\infty }\varphi (t)e^{-ixt}\,dt}

これを利用して数値計算(数値積分)が可能である。

特性関数

分布の特性関数 ψ(z) は、4つのパラメータ α, β, γ, δ によって以下のように表すことができる。

φ ( z ) = exp [ i δ z γ | z | α { 1 + i β sgn ( z ) ω ( z , α ) } ] {\displaystyle \varphi (z)=\exp \left[i\delta z-\gamma |z|^{\alpha }\left\{1+i\beta \operatorname {sgn}(z)\omega (z,\alpha )\right\}\right]}

ω ( z , α ) = { tan π α 2 ( α 1 ) 2 π log | z | ( α = 1 ) {\displaystyle \omega (z,\alpha )=\left\{{\begin{matrix}\tan {\frac {\pi \alpha }{2}}&(\alpha \neq 1)\\{\frac {2}{\pi }}\log |z|&(\alpha =1)\end{matrix}}\right.} ただし、0 < α ≤ 2, −1 ≤ β ≤ 1, γ > 0sgn (x)x符号関数
α は特性指数と呼ばれ、0 < α ≤ 2 の範囲の値をとる安定分布を特徴づける最も重要な量である。安定分布の指数という場合は通常この α のことを指す。α分布の裾の厚みの尺度であり、小さいほど裾が広い。歪度指数、あるいは非対称パラメータとも呼ばれる β は分布の対称性を支配し −1 ≤ β ≤ 1 の値をとり、β = 0 のときは左右対称な分布となる。位置母数 δ は分布全体を平行移動するパラメータである。規模母数 γX の縮尺を変更するパラメータである。

特別なケース

正規分布

α = 2 の場合、(この場合、β は分布に影響を与えない)

φ ( z ) = exp ( i δ z γ z 2 ) {\displaystyle \varphi (z)=\exp \left(i\delta z-\gamma z^{2}\right)}

となる。これは、平均 δ、分散 2γ正規分布である。

Holtsmark分布

α = 3/2, β = 0 の場合、Holtsmark distribution(英語版) となる。この分布は一般超幾何関数を使用することにより確率密度関数を記述できる。

コーシー分布

α = 1, β = 0 の場合

φ ( z ) = exp ( i δ z γ | z | ) {\displaystyle \varphi (z)=\exp \left(i\delta z-\gamma |z|\right)}

となる。これは中央値 δ、尺度母数 γコーシー分布である。

(狭義)レヴィ分布

α = 0.5, β = 1 の場合

φ ( z ) = exp [ i δ z γ | z | { 1 + i sgn ( z ) } ] {\displaystyle \varphi (z)=\exp \left[i\delta z-\gamma {\sqrt {|z|}}\left\{1+i\operatorname {sgn}(z)\right\}\right]}

となる。これは(狭義)レヴィ分布である。

一般化中心極限定理

中心極限定理では、独立同分布(ただし分散は有限に限る)に従う確率変数の算術平均の確率分布は、変数の数が多くなるに従い正規分布に収束するが、安定分布において 0 < α < 2 の場合は分散が無限大となり、正規分布には収束せず安定分布 φ ( x ; α , 0 , c , 0 ) {\displaystyle \varphi (x;\alpha ,0,c,0)} に収束する。 (Voit 2003 § 5.4.3)

参考文献

  • Alder, R. J., R. E. Feldman and M. S. Taqqu eds.(1998年)A Practical Guide to Heavy Tails: Statistical Techniques and Applications
  • ISBN 3-540-00978-7 
  •  John P. Nolan (2009年). “Stable Distributions: Models for Heavy Tailed Data” (PDF). 2009年2月21日閲覧。


外部リンク

  • John P. Nolan 安定分布についてのホームページ
  • Applications 金融市場における安定分布
  • stable distributions GNU Scientific Library — Reference Manual
  • fBasics R 安定分布パッケージ
  • STBL MATLAB 安定分布パッケージ

関連項目

離散単変量で
有限台
離散単変量で
無限台
  • ベータ負二項(英語版)
  • ボレル(英語版)
  • コンウェイ–マクスウェル–ポワソン(英語版)
  • 離散位相型(英語版)
  • ドラポルト(英語版)
  • 拡張負二項(英語版)
  • ガウス–クズミン
  • 幾何
  • 対数(英語版)
  • 負の二項
  • 放物フラクタル(英語版)
  • ポワソン
  • スケラム(英語版)
  • ユール–サイモン(英語版)
  • ゼータ(英語版)
連続単変量で
有界区間に台を持つ
  • 逆正弦(英語版)
  • ARGUS(英語版)
  • バルディング–ニコルス(英語版)
  • ベイツ(英語版)
  • ベータ
  • beta rectangular(英語版)
  • アーウィン–ホール(英語版)
  • クマラスワミー(英語版)
  • ロジット-正規(英語版)
  • 非中心ベータ(英語版)
  • raised cosine(英語版)
  • reciprocal(英語版)
  • 三角
  • U-quadratic(英語版)
  • 一様
  • ウィグナー半円
連続単変量で
半無限区間に台を持つ
  • ベニーニ(英語版)
  • ベンクタンダー第一種(英語版)
  • ベンクタンダー第二種(英語版)
  • 第2種ベータ
  • Burr(英語版)
  • カイ二乗
  • カイ(英語版)
  • Dagum(英語版)
  • デービス(英語版)
  • 指数-対数(英語版)
  • アーラン
  • 指数
  • F
  • folded normal(英語版)
  • Flory–Schulz(英語版)
  • フレシェ
  • ガンマ
  • gamma/Gompertz(英語版)
  • 一般逆ガウス(英語版)
  • Gompertz(英語版)
  • half-logistic(英語版)
  • half-normal(英語版)
  • Hotelling's T-squared(英語版)
  • 超アーラン(英語版)
  • 超指数(英語版)
  • hypoexponential(英語版)
  • 逆カイ二乗(英語版)
    • scaled inverse chi-squared(英語版)
  • 逆ガウス
  • 逆ガンマ
  • コルモゴロフ
  • レヴィ
  • 対数コーシー
  • 対数ラプラス(英語版)
  • 対数ロジスティック(英語版)
  • 対数正規
  • ロマックス(英語版)
  • 行列指数(英語版)
  • マクスウェル–ボルツマン
  • マクスウェル–ユットナー(英語版)
  • ミッタク-レフラー(英語版)
  • 仲上(英語版)
  • 非心カイ二乗
  • パレート
  • 位相型(英語版)
  • poly-Weibull(英語版)
  • レイリー
  • relativistic Breit–Wigner(英語版)
  • ライス(英語版)
  • shifted Gompertz(英語版)
  • 切断正規
  • タイプ2ガンベル(英語版)
  • ワイブル
    • 離散ワイブル(英語版)
  • ウィルクスのラムダ(英語版)
連続単変量で
実数直線全体に台を持つ
連続単変量で
タイプの変わる台を持つ
  • 一般極値
  • 一般パレート(英語版)
  • マルチェンコ–パストゥール(英語版)
  • q-指数(英語版)
  • q-ガウス
  • q-ワイブル(英語版)
  • shifted log-logistic(英語版)
  • トゥーキーのラムダ(英語版)
混連続-離散単変量
  • rectified Gaussian(英語版)
多変量 (結合)
【離散】
エウェンズ(英語版)
多項
ディリクレ多項(英語版)
負多項(英語版)
【連続】
ディリクレ
一般ディリクレ(英語版)
多変量正規
多変量安定(英語版)
多変量 t(英語版)
正規逆ガンマ(英語版)
正規ガンマ(英語版)
行列値
逆行列ガンマ(英語版)
逆ウィッシャート(英語版)
行列正規(英語版)
行列 t(英語版)
行列ガンマ(英語版)
正規逆ウィッシャート(英語版)
正規ウィッシャート(英語版)
ウィッシャート
方向
【単変量 (円周) 方向
円周一様(英語版)
単変数フォン・ミーゼス
wrapped 正規(英語版)
wrapped コーシー(英語版)
wrapped 指数(英語版)
wrapped 非対称ラプラス(英語版)
wrapped レヴィ(英語版)
【二変量 (球面)】
ケント(英語版)
【二変量 (トロイダル)】
二変数フォン・ミーゼス(英語版)
【多変量】
フォン・ミーゼス–フィッシャー(英語版)
ビンガム(英語版)
退化特異
  • 円周(英語版)
  • 混合ポワソン(英語版)
  • 楕円(英語版)
  • 指数
  • 自然指数(英語版)
  • 位置尺度(英語版)
  • 最大エントロピー(英語版)
  • 混合(英語版)
  • ピアソン(英語版)
  • トウィーディ(英語版)
  • wrapped(英語版)
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