江戸名所図会

妙薬「錦袋円」を売る勧学屋（『江戸名所図会』）

『江戸名所図会（えどめいしょずえ）』は、江戸時代後期の天保年間に書かれた江戸の地誌。斎藤月岑が7巻20冊で刊行した。鳥瞰図を用いた長谷川雪旦の挿図も有名。

概要

鶴見橋（現・鶴見川橋）。（『江戸名所図会』）

神田の町名主であった斎藤長秋（幸雄）・莞斎（幸孝）・月岑（幸成）の3代にわたって書き継がれた[1]。長秋は京都の名所図会（『都名所図会』）に刺激を受け、寛政期に編纂を開始した。当初は『東都名所図会』という題だったとも言われるが、脱稿時点で『江戸名所図会』に決まっていた[1]。

当初は8冊本として刊行予定であり[1]、1798年（寛政10年）5月に出版許可も得ていたものの[1]、1799年（寛政11年）長秋が63歳で病死した。後を継いだ婿養子の莞斎は郊外分などの追補に努め、長谷川雪旦に画を依頼した。1818年（文化15年）に莞斎が死去し、その刊行は月岑に託された。結局、前半1–3巻（10冊）は1834年（天保5年）、後半4–7巻（10冊）は1836年（天保7年）に刊行された[1]。拾遺編を刊行する意志もあったようだが、刊行には至らなかった[1]。

武蔵、江戸の由来、日本橋から、各所の寺社、旧跡、橋、坂などの名所について記しており、近郊の武蔵野、川崎、大宮、船橋などにも筆が及んでいる。考証の確かさ[2]と、当時の景観や風俗を伝える雪旦の挿図が高く評価[3]されており、江戸の町についての一級資料になっている。

内容

当時の図会は方角順に記述するものと郡別に記述するものがあり、『江戸名所図会』は方角順に記述している[1]。天枢、天璇…は北斗七星の中国名。

巻 　部 冊数 内　容 　冊　
1 天枢之部 3冊 （武蔵、江戸）日本橋、本町通、神田、小川町、飯田町、両国、霊巌島、八町堀、築地鉄砲洲、芝口、愛宕下、西久保、赤羽根、三田、魚藍、白銀、芝浦 　一
　二
　三
2 天璇之部 3冊 品川駅、大井、鈴ヶ森、池上、矢口、大森、蒲田八幡、六郷、川崎、鶴見、生麦、神奈川、本牧、程ヶ谷、杉田、金沢 　四
　五
　六
3 天璣之部 4冊 外神田、霞関、永田馬場、平川、溜池、麻布、広尾、青山、目黒、碑文谷、北沢、世田ヶ谷、渋谷、四谷、千駄ヶ谷、代々木、高井戸、武蔵野、府中、玉川、向ノ岡 　七
　八
　九
　十
4 天権之部 3冊 市谷、牛込、小石川、大窪、柏木、成子、堀之内、中野、小金井、築土、高田、大塚、雑司ヶ谷、巣鴨、板橋、練馬、大宮、野火留 十一
十二
十三
5 玉衡之部 2冊 湯島、上野、日暮里、根津、谷中三崎、駒込、王子、川口、豊島 十四
十五
6 開陽之部 2冊 浅草、下谷、根岸、山谷、橋場、千住、西新井 十六
十七
7 揺光之部 3冊 深川、本所、亀戸、押上、柳島、隅田川、木下川、松戸、行徳、国府台、八幡、船橋 十八
十九
二十

刊行物

原本

  • 『江戸名所図会 一』 巻之一 天樞之部。NDLJP:2563380。https://dl.ndl.go.jp/pid/2563380/1/1。 
  • 『江戸名所図会 二』 巻之一 天樞之部。NDLJP:2563381。https://dl.ndl.go.jp/pid/2563381/1/1。 
  • 『江戸名所図会 三』 巻之一 天樞之部。NDLJP:2563382。https://dl.ndl.go.jp/pid/2563382/1/1。 
  • 『江戸名所図会 四』 巻之二 天璇之部。NDLJP:2563383。https://dl.ndl.go.jp/pid/2563383/1/1。 
  • 『江戸名所図会 五』 巻之二 天璇之部。NDLJP:2563384。https://dl.ndl.go.jp/pid/2563384/1/1。 
  • 『江戸名所図会 六』 巻之二 天璇之部。NDLJP:2563385。https://dl.ndl.go.jp/pid/2563385/1/1。 
  • 『江戸名所図会 七』 巻之三 天璣之部。NDLJP:2563386。https://dl.ndl.go.jp/pid/2563386/1/1。 
  • 『江戸名所図会 八』 巻之三 天璣之部。NDLJP:2563387。https://dl.ndl.go.jp/pid/2563387/1/1。 
  • 『江戸名所図会 九』 巻之三 天璣之部。NDLJP:2563388。https://dl.ndl.go.jp/pid/2563388/1/1。 
  • 『江戸名所図会 十』 巻之三 天璣之部。NDLJP:2563389。https://dl.ndl.go.jp/pid/2563389/1/1。 
  • 『江戸名所図会 十一』 巻之四 天権之部。NDLJP:2563390。https://dl.ndl.go.jp/pid/2563390/1/1。 
  • 『江戸名所図会 十二』 巻之四 天権之部。NDLJP:2563391。https://dl.ndl.go.jp/pid/2563391/1/1。 
  • 『江戸名所図会 十三』 巻之四 天権之部。NDLJP:2563392。https://dl.ndl.go.jp/pid/2563392/1/1。 
  • 『江戸名所図会 十四』 巻之五 玉衡之部。NDLJP:2563393。https://dl.ndl.go.jp/pid/2563393/1/1。 
  • 『江戸名所図会 十五』 巻之五 玉衡之部。NDLJP:2563394。https://dl.ndl.go.jp/pid/2563394/1/1。 
  • 『江戸名所図会 十六』 巻之六 開陽之部。NDLJP:2563395。https://dl.ndl.go.jp/pid/2563395/1/1。 
  • 『江戸名所図会 十七』 巻之六 開陽之部。NDLJP:2563396。https://dl.ndl.go.jp/pid/2563396/1/1。 
  • 『江戸名所図会 十八』 巻之七 揺光之部。NDLJP:2563397。https://dl.ndl.go.jp/pid/2563397/1/1。 
  • 『江戸名所図会 十九』 巻之七 揺光之部。NDLJP:2563398。https://dl.ndl.go.jp/pid/2563398/1/1。 
  • 『江戸名所図会 二十』 巻之七 揺光之部。NDLJP:2563399。https://dl.ndl.go.jp/pid/2563399/1/1。 

有朋堂文庫版

  • 『江戸名所図会 第1』。doi:10.11501/1174130。https://dl.ndl.go.jp/pid/1174130。 
  • 『江戸名所図会 第2』。doi:10.11501/1174131。https://dl.ndl.go.jp/pid/1174131。 
  • 『江戸名所図会 第3』。doi:10.11501/1174132。https://dl.ndl.go.jp/pid/1174132。 
  • 『江戸名所図会 第4』。doi:10.11501/1174133。https://dl.ndl.go.jp/pid/1174133。 [4]

新訂版

  • 市古夏生・鈴木健一校訂『新訂 江戸名所図会』（全6巻）ちくま学芸文庫、1996年 - 97年
    • 市古夏生・鈴木健一校訂『別巻1 新訂 江戸切絵図集』ちくま学芸文庫、1997年
    • 市古夏生・鈴木健一編『別巻2 新訂 江戸名所図会事典』ちくま学芸文庫、1997年 - 各・2009年（復刊）
    • 市古夏生・鈴木健一校訂『新訂 江戸名所花暦』ちくま学芸文庫、2001年

角川文庫版

鈴木棠三・朝倉治彦校注『江戸名所図会』（全6巻）角川文庫、1966-68年（1989年復刊）

  • 『江戸名所図会 第1』。doi:10.11501/2982542。https://dl.ndl.go.jp/pid/2982542。 
  • 『江戸名所図会 第2』。doi:10.11501/2982543。https://dl.ndl.go.jp/pid/2982543。 
  • 『江戸名所図会 第3』。doi:10.11501/2982544。https://dl.ndl.go.jp/pid/2982544。 
  • 『江戸名所図会 第4』。doi:10.11501/2982545。https://dl.ndl.go.jp/pid/2982545。 
  • 『江戸名所図会 第5』。doi:10.11501/2982546。https://dl.ndl.go.jp/pid/2982546。 
  • 『江戸名所図会 第6』。doi:10.11501/2975496。https://dl.ndl.go.jp/pid/2975496。 
  • 鈴木棠三・朝倉治彦 校註『江戸切絵図集』角川文庫、1968年。doi:10.11501/2984209。https://dl.ndl.go.jp/ja/pid/2984209。 

単行版

鈴木棠三・朝倉治彦校註『新版 江戸名所図会』（単行判 全3巻）角川書店、1975年

  • 『新版 江戸名所図会』 上巻。doi:10.11501/9640381。https://dl.ndl.go.jp/pid/9640381。 
  • 『新版 江戸名所図会』 中巻。doi:10.11501/9640382。https://dl.ndl.go.jp/pid/9640382。 
  • 『新版 江戸名所図会』 下巻。doi:10.11501/9640383。https://dl.ndl.go.jp/pid/9640383。 

デジタル版

ウィキメディア・コモンズには、江戸名所図会に関連するカテゴリがあります。

脚注

  1. ^ a b c d e f g 鈴木棠三・朝倉治彦『江戸名所図会（六）』角川文庫、1968年2月、427-452頁。 
  2. ^ “『江戸名所図会』 - 古典に親しむ”. 国文学研究資料館. 2024年3月22日閲覧。 “歴史的な文献を渉猟するとともに、実地調査を行っており、地誌として信頼できる記事となっている。”
  3. ^ “『江戸名所図会』 - 古典に親しむ”. 国文学研究資料館. 2024年3月22日閲覧。 “長谷川雪旦はせがわせったんが描いた挿絵は、実景を写したものとして高く評価されている。”
  4. ^ "江戸名所図会. 第4"には、岡山鳥「江戸名所花暦」を付す
  5. ^ ジャパンナレッジ版『江戸名所図会』　2008年4月10日公開