極座標系

極座標系(きょくざひょうけい、: polar coordinate system)とは、n 次元ユークリッド空間 Rn 上で定義され、1 個の動径 rn − 1 個の偏角 θ1, …, θn−1 からなる座標のことである。点 S(0, 0, x3, …,xn) を除く直交座標系は、局所的に一意的な極座標に座標変換できるが、S においてはヤコビアン が 0 となってしまうから、一意的な極座標表現は不可能である。それは、S に於ける偏角が定義できないことからも明らかである。

いろいろな極座標とその拡張

円座標

2 次元ユークリッド空間 R2 における極座標は円座標(: circular coordinates)と呼ばれ、一つの動径座標と一つの角度座標からなる、最も単純な極座標である。 平面、極座標平面(または平面極座標[1])ともいう。特異点は (r, θ) = (0, θ) 即ち、xy座標での原点 (x, y) = (0, 0) である。2 次元実ベクトル空間にも定義できることから、複素数 C 上にも定義できる。この時、円座標を極形式と呼んだりもする。その場合、オイラーの公式を利用して z = re と表す。円座標平面上で偏角を限定しなければ、これはxy平面上で円を描く。

円座標 (r,θ) から直交直線座標 (x,y) への変換は

{ x = r cos θ y = r sin θ {\displaystyle {\begin{cases}x=r\cos \theta \\y=r\sin \theta \\\end{cases}}}

で与えられる。角度座標の範囲を −π < θ ≤ π とする場合の直交直線座標から円座標への変換は

{ r = x 2 + y 2 θ = sgn ( y ) arccos ( x / x 2 + y 2 ) {\displaystyle {\begin{cases}r={\sqrt {x^{2}+y^{2}}}\\\theta =\operatorname {sgn}(y)\arccos(x/{\sqrt {x^{2}+y^{2}}})\\\end{cases}}}

で与えられる。ここで sgn符号関数である。原点 (x,y) = (0,0) において特異性があり、分母がゼロとなるため θ が定まらない。

円筒座標

詳細は「円筒座標系」を参照

円座標で (0, 0) を除く xy 平面上の全ての点を表現できるから、これに z 軸を加えれば、xyz 空間が表現できる。これを円筒座標系: cylindrical coordinate system)と言う。円筒座標空間上(rθz 空間上ともいう)で、θ, z を限定しなければ、これは xyz 空間上で円柱を描く。また、円筒座標空間上の特異点は z 軸上の全ての点である。

円筒座標 (r,θ,z) から直交直線座標 (x,y,z) への変換は

{ x = r cos θ y = r sin θ z = z {\displaystyle {\begin{cases}x=r\cos \theta \\y=r\sin \theta \\z=z\\\end{cases}}}

で与えられ、直交直線座標から円筒座標への変換は

{ r = x 2 + y 2 θ = sgn ( y ) arccos ( x / x 2 + y 2 ) z = z {\displaystyle {\begin{cases}r={\sqrt {x^{2}+y^{2}}}\\\theta =\operatorname {sgn}(y)\arccos(x/{\sqrt {x^{2}+y^{2}}})\\z=z\\\end{cases}}}

で与えられる。

球座標

詳細は「球面座標系」を参照
球座標による3次元ユークリッド空間内の点の表示

3 次元ユークリッド空間 R3 における極座標系。球面座標系: spherical coordinate system)とも呼ばれる。1 個の動径 r と 2 個の偏角 θ, φ によってなる(図を参照)。球面座標系において、動径を固定し、2 個の偏角を動かせば、xyz 空間上でを描く。

球座標から直交直線座標への変換は

{ x = r sin θ cos ϕ y = r sin θ sin ϕ z = r cos θ {\displaystyle {\begin{cases}x=r\sin \theta \cos \phi \\y=r\sin \theta \sin \phi \\z=r\cos \theta \\\end{cases}}}

で与えられ、直交直線座標から球座標への変換は

{ r = x 2 + y 2 + z 2 θ = arccos ( z / x 2 + y 2 + z 2 ) ϕ = sgn ( y ) arccos ( x / x 2 + y 2 ) {\displaystyle {\begin{cases}r={\sqrt {x^{2}+y^{2}+z^{2}}}\\\theta =\arccos(z/{\sqrt {x^{2}+y^{2}+z^{2}}})\\\phi =\operatorname {sgn}(y)\arccos(x/{\sqrt {x^{2}+y^{2}}})\\\end{cases}}}

で与えられる。z-軸上 (x,y) = (0,0) において特異性があり、分母がゼロとなるため φ が定まらない。原点においては θ も定まらない。

詳細は「球面座標系」を参照

積分への応用

極座標平面での長方形は、直交座標に於ける扇形の一部となる。特に θ の長さが 2π であれば、直交座標においては円の一部となる。r を 0 から +∞ とすれば、この円は直交座標平面全体となる。従って、直交座標平面全体は、極座標平面に於ける長方形、r × θ = [0, ∞) × [0, 2π) に等しい。以上のことは広義二重積分に於いて有用である。なぜなら上記から、

d x d y f ( x , y ) = 0 2 π d θ 0 d r r f ( r cos θ , r sin θ ) {\displaystyle \int _{-\infty }^{\infty }dx\int _{-\infty }^{\infty }dyf(x,y)=\int _{0}^{2\pi }d\theta \int _{0}^{\infty }dr\,rf(r\cos \theta ,r\sin \theta )}

が導けるからである。この公式は、例えばガウス積分を求めるのに用いられる。

d x d y e ( x 2 + y 2 ) = 0 2 π d θ 0 d r r e r 2 {\displaystyle \int _{-\infty }^{\infty }dx\int _{-\infty }^{\infty }dy\,e^{-(x^{2}+y^{2})}=\int _{0}^{2\pi }d\theta \int _{0}^{\infty }dr\,re^{-r^{2}}}

左辺の積分は、このままの状態で解くのは困難だが、右辺の形にすれば、

0 2 π d θ 0 d r r e r 2 = 2 π × ( 1 / 2 ) e r 2 | 0 = π {\displaystyle \int _{0}^{2\pi }d\theta \int _{0}^{\infty }dr\,re^{-r^{2}}=2\pi \times (-1/2)e^{-r^{2}}{\Big |}_{0}^{\infty }=\pi }

と解くことができる。

出典

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  1. ^ 小出昭一郎 『物理入門コース2 解析力学』 1-1〜1-3節、岩波書店、1983年

関連項目

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